解題「マキゾエホリック」 第六回

 第一〇回角川スニーカー大賞。その締め切りまで残り一ヶ月余りとなった、二〇〇四年の秋のこと。私は応募原稿の内容に頭を悩ませていた。
 と言うのも、その前に応募した角川学園小説大賞が惨敗だったからだ。「とにかく自分の好きなものを」と意気込んで書いた作品だっただけに、一次選考の段階で落とされたのは、やはり応えた。と同時に、「普通の作品では賞は取れない」という非常に当たり前の事実を、今さらのように噛み締めていた。
 何しろ新人賞だ。目立てば目立つだけ有利になるのに、普通で済ませる道理はない。
 だからとにかく目立とう、と思った。何でもいい。とにかく強烈なインパクトが欲しかった。そう考えながら、パソコンの中の「プロット」と書かれたフォルダを開いたら。

 あった。インパクトだけは申し分ない、阿呆なクラス名簿が。


 実のところ、迷いは生じた。この名簿を使って何か小説を書いたところで、それは物語として破綻するに違いなく、所詮「パロディ」として切り捨てられるものでしかない。実に常識的に、そう考えたからだ。
 だが一方で、やはりこれに勝るインパクトを秘めた構想は、どこにもなかった。
 ならば、やるしかない。そう思い、私はすぐさまストーリーを考え始めた。


 まず、名簿作成のヒントになった、あのプロットは使えない。このクラスが舞台では、どう転んでも切なさなど湧くはずがないからだ。
 しかし「主人公は、彼らの物語に関わることのないエキストラである」という要素は残したかった。切なさも哀しみもないエキストラ。それは即ち、周りの個性溢れる連中に羨望など抱かず、ただシニカルな目でしか物を見ない、どこか捻くれた性格の持ち主なのだろう。
 どんなにヒーローやヒロインが並んだところで、そこに価値など見出さない。むしろ彼らの紡ぐ「物語」を鬱陶しくさえ思っている(例えば、学校を舞台に命懸けの戦いを繰り広げているような生徒が同じクラスにいたら、そりゃこの上なく迷惑に違いない)。そんな主人公像が、自然と出来上がった。
 しかし周りに振り回されることもなく、ただ皮肉っているだけの主人公では、物語になりそうもない。やはり彼には、何かさせる必要がある。
 そこで浮かんだのが、「事件記録委員」という謎の役割だった。学級委員でも風紀委員でも生徒会でもない。あくまで「記録」することが目的のこの委員は、常に周りの生徒を傍観することが求められる。主人公は、クラスメイトの「物語」を冷静に分析し、その内容を簡潔にまとめるという技術に秀でているのだ――ということにした。
 なお、この委員会の名称は、すぐに「生徒監視委員会」に改められた。今となっては理由は朧げだが、おそらく「いくら何でも『記録』するだけって、ソレ何のためにあるのよ」とでも思ったのだろう。かくしてこの主人公は、「周囲の生徒に目を光らせる監視官」という役割を請け負うことになった。
 イメージは知性派だ。しかも皮肉屋で傍観者。何となく、メガネに違いない。
 名前は「灘英斗」とした。これまた、何となく。

 こうして固まった主人公像だが、さて、これは男性だ。となれば、相手役の女子を設定するのがお決まりである。
 灘の相手となる女性。やはり、いろいろな面で正反対な方が面白いに違いない。そう思い、「傍観者」の灘に対して、「当事者」のヒロイン象を考えることにした。
 彼女はとにかく「巻き込まれる」。クラスメイトが引き起こす、いかなる事件にも関係しており、灘を呆れさせるのだ。しかし彼女の方はと言えば、とにかく自分が事件に巻き込まれがちなものだから、灘の「傍観者」ぶりに憧れてしまい、「私も生徒監視委員になりたい!」などと言い出して、灘に付きまとうことになる。
 呆れる少年と、付きまとう少女。いかにもライトノベルではありがちな関係だ。もっともこの部分はパロディでも何でもなく、素で思い至ったものだったが。
 とにかくこうして、ヒロインのイメージも固まった。名前は、「波乱万丈」なところから「高浪藍子」とした。

 物語は、やはり灘が藍子と出会うところからスタートするのだろう。有能な監視委員である灘の前に、ある日突然現れた「究極の当事者」藍子。彼女は転校生で、この奇妙なクラスを舞台に、さっそく騒動の限りを尽くす。そんな彼女を、灘は果たして救えるのか――といったところだ。
 この時点で私の中では、最終的に灘と藍子が結ばれるであろうエピローグが、先立って見えていた。なぜなら、ライトノベルの主演男女とは、そういうものだからである。


 だが、この典型的ラノベカップルとして設定されたはずの二人が、実際には果たしてどうだったか。すでに本作をお読みになられた方なら、ご存じのことだろう。
 灘と藍子の青春真っ盛りな関係が崩壊したのは、執筆に入ってすぐのことだった。が、その事情を書く前に、どうしても触れておかなければならないことがある。
 即ち、「この物語は、なぜミステリーとして書かれたか」だ。

テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

tag : マキゾエホリック

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