『宇宙は多元かつ並行につき、僕と君は恋をする。』第13回

 連載記事『宇宙は多元かつ並行につき、僕と君は恋をする。』の第13回になります。
 第4章-3。
 並行宇宙で紗耶香を助け、戻ってきた勇輝。
 そこへ訪ねてきたのは、こちらの世界の享子と、そして紗耶香だった……。

※こちらは、拙作『リバース;エンド』の初期プロットを、簡易小説として書き改めたものです。


 * * *

 少しして来客があった。享子だ。
 まさか僕を刺しに来たんじゃないだろうな……と警戒したが、それは考えすぎだった。
 そもそもこの世界では、享子は紗耶香の親友だ。ストーカーとかではない。
「紗耶香ちゃんを助けてくれたから、そのお礼にきたの。ほら、紗耶香ちゃんも入って入って」
 紗耶香も来ていた。お見舞いだからか、リンゴの袋を抱えている。
「……ありがとう」
 目を伏せて恥ずかしそうにしながら、紗耶香は呟いた。元の世界では、つくづくおとなしい子だ。
 享子は「リンゴ切ってくる」と言って、紗耶香を残して部屋を出ていった。
 僕は……紗耶香と二人きりになった。

「大星くん、私のせいでごめんなさい……」
 紗耶香はまず謝った。僕は笑顔で返した。
「いいんだ、さや……天永さん」
 僕はつい名前で呼びかけ、すぐにいつもの名字に改めた。
 恋人経験までした並行宇宙の紗耶香とは違い、妙な心の壁が、元の世界の彼女にはあった。

 紗耶香と二人きりで話すのは初めてだった。
 何となく共通の話題になりそうなものを選びながら言葉を交わすうちに、僕は紗耶香の家庭事情を知った。
 紗耶香は、自分の母親の顔を覚えていなかった。小さい頃からずっと父親に育てられ、しかしその父親も、数年前に他界したという。
 今は父親が残した古い家に一人暮らし。もっとも、享子が世話をしに通ってくれているので、寂しくはないとのことだ。
 そして――こんな境遇を周りに知られて気を遣わせたくないので、普段は目立たないようにしている……と、紗耶香はそう語った。
 もっとも、その話し方に悲しみは感じない。享子の話をする時などは、微かに表情が緩んでいる。決して暗い子ではないのだ。
(笑顔が見たいな。この世界の、天永さんの笑顔が……)
 僕はそう思った。
 これまで出会ってきた並行宇宙の三人の「紗耶香」は、みんな明るく輝いていた。だとしたら、この世界の紗耶香だって、きっと同じように輝けるに違いない。

 初めは、最高のヒロインだと思った。だからノートに綴った。
 やがて、それは間違いだったと思い直した。途端に興味が薄れていった。
 でも、今は……?
 僕の彼女への気持ちは、はっきりと濃くなっている。
 しかし――僕は、まだ知らないのだ。
 ……この世界の、紗耶香の笑顔を。

(きっと守り抜いてみせる――)
 紗耶香と話をしながら、僕は心の中で強く誓った。

 そこへ享子が戻ってきた。
 彼女が抱えたお盆の上には、リンゴの載った皿と果物ナイフが――。
「きゃっ!」
 不意に享子がつまづいた。ナイフが飛び、紗耶香に向かう。
 ……だが、幸い刺さることはなかった。ナイフは紙一重で紗耶香の横を掠め、畳の上に突き立つに止まった。
「ごめん。大丈夫……?」
 真っ青になって訊ねてきた享子に、僕と紗耶香は唖然としながらも、仲良く同時に頷いていた。

テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

tag : リバース;エンド 多元宇宙

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