解題「マキゾエホリック」 第七回

 主人公の灘と、ヒロインの藍子。無事メインキャラが決まったところで、続いて考えるべきはストーリーだ。
 実のところ、私の場合、「登場人物を作ってから物語を考える」というやり方は、いまいちしっくり来ない。だいたいストーリーあっての小説なのだから、登場人物はいずれも必要不可欠な存在でなければならないと思っている。それは逆に言えば、「不要な登場人物は出さないに限る」ということである。
 ただ、今回ばかりは事情が違った。なぜなら、前提としてあるのが「クラス名簿」なのだから。


 もっとも、とりあえずの大筋は、灘と藍子の設定から導き出されていたと言っていいだろう。非常に単純ではあるが、

1.クラスの連中が騒動を起こす。
2.藍子が巻き込まれる。
3.灘が愚痴りながら事件を治め、藍子を助ける。

 これだけである。実に簡素だ。
 しかし、ここで私は詰まった。何しろ舞台が舞台だ。あらゆる問題児が集う教室ともなれば、それこそ事件は日常茶飯事。上記の1~3は、何度も繰り返されることになる。
 そしてもちろん、「ただ事件が繰り返されるだけ」の長編小説など、グダグダで何の魅力もない。所詮冗長なだけのパロディ小説である。
 そもそも、登場人物が多すぎる。登場人物が多いから、事件は何度も繰り返されざるを得ない。悪循環だ。そう、ぶっちゃけ、登場人物はこんなにいらないのだ。
 けれども論理を捨てて本音を吐けば、私はこのクラス名簿に書かれた人物を、全員登場させてやりたかった。一見矛盾した考えだが、やはりこれは「新人賞に応募する作品」である。インパクトと引き換えならば、それぐらいの暴挙は雑作もない。むしろ激しいアピールにはなるはずだ――と、当時の私は大真面目に思った。
 何とも小賢しい話だ。
 では、その小賢しさを実現するためには、どうすればいいのか。これだけの大人数と、次々に起こるパロディ的事件。すべてにきちんと意味を持たせ、一本の長編としてまとめる方法とは、何か。

 一つ、思い付いた。
 あらゆる情報から意味が導き出され得ると同時に、その意味を求めることこそが物語を動かしていく、とてつもなく楽しいワクワクする小説ジャンル。そう、ミステリーである。
 なお、この「とてつもなく楽しいワクワクする」という定義は、単に私の趣味による。問答無用だ。
 ともかく「ミステリーとして書く」。これに尽きると思った。


 さて、本作にミステリーという形式を持ち込むに当たって、大いに影響を受けた本が二冊ある。
 まず一冊目は、高校生の頃に読んだ、京極夏彦さんの『絡新婦の理』。すべての事件を一つに収束させる「黒幕」の存在は、この本の影響なくしては誕生しなかったと言っていい。言わば、事件の「組み立て方」を学んだのだ。
 二冊目は、小学生の時に読んだ、横田順彌さんの『混線乱線殺人事件 ボンド之介ファイル』。ハチャハチャである。いくつもの事件が駄洒落によって解決され、しかもそれが正答であり、登場人物からのツッコミは一切入らないというその内容は、幼い私に「ミステリーは真面目に考えなくたっていい」という教訓(?)を与えてくれた。こちらは言わば、事件の「解き方」を学んだのだ。
 組み立て方と解き方。二つの要素が固まり、かくして、私の書くべき物語の方向性も定まった。
 綿密に計算された上で発生する事件。しかしそれを解くには、極めて馬鹿馬鹿しいロジックを用いなければならず、しかもそれに対するツッコミは無し。何でもアリだからこそ成り立つ、一クラスの生徒全員を巻き込んだ、壮大な「バカミステリー」。

 俄然執筆意欲が湧いた。ただこの段階で、本来のスタート地点であった「エキストラとしての生き方」をきちんと描く余裕は、明らかに無くなっていた。
 それでも私は開き直った。人生哲学はあくまで裏に回し、表向きには馬鹿に徹すること。それを己への課題とし、いよいよ具体的に物語を組み立て始めた。
 タイトルは「僕らの記号」とした。「記号」というワードは、いわゆる「記号学」から拝借した。当初の名簿作りでは、キャラクターの属性を指して「記号」と称していたが、調べてみたところ、どうも本来の学問では、この言葉の用い方は間違っているらしい。だがそれを知ってなお、私が「記号」という言葉ですべてを押し通したのは、何のことはない、単に言葉の響きがかっこよかったからである。
 まあ、「僕らの構造」や「僕らの属性」では実に締まらないから、やはり「記号」に限るのだ。たぶん。


 だが、「記号」の誤用を差し置いてなお、タイトルの変更は求められることになった。そう、「僕ら」が「君等」に替わったのである。
 それはひとえに、この物語が「ミステリー」になったが故であったわけだが……。
 以降、次回へ続く。

テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

tag : マキゾエホリック

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