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ゲゲゲの鬼太郎第6期・第43話『永遠の命 おどろおどろ』 感想

 今回の原作は「おどろおどろ」。
 自らを薬の実験台にし妖怪と化してしまった科学者と、彼を守ろうとしたその息子・正太郎の物語です。
 読み切りの短い作品ながら、おどろおどろを倒した鬼太郎が正太郎に石を投げられ静かに去っていくエンディングは、とても切なく、印象深いものでした。
 一方で、霊界輸送機やホウキ元素といった独特な発明品・化学元素が、水木色を存分に発揮しております。
 歴代アニメ版でも常連エピソードの一つですが、実はアニメの方では、ストーリーの肝である正太郎ポジションの人物像が、各シーズンで変遷しているのが特徴的だったりします。

 第一期は原作に則した少年として登場。誘拐と採血を繰り返す父を世間から匿い、それ以上のことは特にしないという無難な立ち位置でした。父を倒した鬼太郎に怒りをぶつけるのも、原作と同じです。

 しかし第三期では、一転して青年として登場。こちらは父の餌食となる子供をさらう、誘拐の実行犯としての役目を負っていました。しかしながら父の凶行に苦しんでもおり、「子供を襲うぐらいなら自分の血を吸って満足してくれ」と自らの腕から血を垂らして父に迫る姿は印象的。が、もちろんおどろおどろは言うことを聞いてくれず――。
 父親を鬼太郎に倒された後は、自ら警察に出頭するため、爽やかな笑顔で去っていきました。鬼太郎を恨むという要素はなく、原作から一転して後味のいい終わり方になったものの、きれいにまとまっており、父による呪縛とそれに苦悩する息子を描いた良作だったと思います。

 続く第四期ですが……これは正直いただけない回になりました。
 正太郎ポジションとして、科学者の助手(女性)が登場しますが、彼女については、あまり印象は残っていません。
 問題は、おどろおどろが迎えた結末ですね。なんと、鬼太郎の力で人間に戻してもらえるんです。
 ……いや、戻ることそのものは悪くないんです。ただ、おどろおどろは自分が元の姿に戻るために、子供の新鮮な血液を求めていました。それが妖怪になったが故の暴走……であればまだいいのですが、どうも彼の場合、きちんと人間としての意思を保った上で、利己的に振る舞っていたようにしか見えないんですよね。なのに最後、鬼太郎が科学者を助け、科学者がお礼を言って終了という、何ともすっきりできない展開に――。
 そもそも原作の「おどろおどろ」は、「救われるべき存在が救い様のない悪に染まった時に、それを裁くか、許すか」という大きなテーマを内包した作品でもありました。鬼太郎は自らの役目として裁くことを選び、肉親である正太郎は許すことを望んだ。だからそこに対立が生まれたわけです。
 第三期では、鬼太郎は当然裁く立場にありました。一方で息子は、「許す」と「裁く」の狭間である「迷う」位置にあり、苦悩の末、親子ともども裁かれることを望みました。だからそこにドラマが生まれたわけです。
 しかし第四期は……そういった要素が何一つなく、ただ理不尽なだけだった気がします。この第四期自体、「人間が殺される」という展開をかなり慎重に避けていたようで(一部例外はありましたが)、その結果こうなったのかなとも思うのですが、それならそれできちんと視聴者を納得させてほしかったですね。

 続いて第五期。こちらは原作要素はかなりオミットされ、純粋に悪の妖怪としてのおどろおどろが登場するに留まりました。
 言ってしまえば、「おどろおどろ対吸血鬼」に登場する方のおどろおどろですね。なので、原作との比較は不要な感じです。
 ……そんなわけで、ここまで過去作のおどろおどろのおさらいでした。長ぇよ。


 さて第六期です。
 今回はまたこれまでとは少し変わっていて、おどろおどろは人間時のみ理性を保ち、変身すると理性を失うというパターンを繰り返していました。言わば狼男タイプですね。そして人間時に限り、自らを裁いてもらうことを望んでいます(……余談ですが、不死の細胞の論文を巡る部分は、STAP細胞騒動をベースにしていますね)。
 一方でその娘・美琴は、父を許すことを望むポジション。これについては原作より徹底していて、SNSで自殺志願者を募って父の餌食になってもらうことを検討するなど、かなり過激な方向に陥りかけていました。
 そんな中、鬼太郎は「裁く」と「許す」の狭間で「迷う」ことになります。おどろおどろが人として理性を保っているが故の悩みですね。旧作ではあくまで裁く側にいた鬼太郎ですが、ここへ来て新たな可能性が描かれたことになります。

 果たしておどろおどろを倒すべきなのか、否か――。鬼太郎がその迷いを最終的に断ち切ったのは、おどろおどろがついに美琴の血を吸い始めた瞬間でした。
 もはや人間に戻ることはできない、と判断し、指鉄砲でおどろおどろを倒した鬼太郎。その鬼太郎に、静かに怒りをぶつける美琴。最終的に対立が残ったのは原作と同じですが、ここに至った鬼太郎の葛藤や決断を想うと、なかなか味わい深い回だった――と感じた次第です。

 おどろおどろから人間の姿に戻った父親の肉体が霧散し、美琴がその手を取ることが出来なかったのが、印象深かったです。
 あの時点で、父親は完全に妖怪になってしまっていた――と見なすべきなのでしょうね。


 さて、ここから零れ話。
 今回の話の中で、迷う鬼太郎に目玉おやじが、牛鬼のエピソードの時のことを語る場面がありました。
 おどろおどろと牛鬼。理性を失って怪物と化した肉親を、どう扱えばいいのか――という点で問題が一致しており、上手く絡めてきたなぁというのが、まあ、初めの素直な感想だったのですが――。
 ……ん、おどろおどろと牛鬼? いや、これは原作的には因縁の組み合わせじゃないですか!

 貸本版「墓場鬼太郎」で夜叉として登場したキャラクター(姿はマガジン版の夜叉と共通)が、貸本版のリメイクとして描かれたガロ版「鬼太郎夜話」で、名前を牛鬼に変更。ただしその姿はおどろおどろ。
 さらにこの「おどろおどろの姿をした牛鬼という名前のキャラクター」が登場するパートが、独立した「牛鬼対吸血鬼」というエピソードとして、マガジン版でリライト。ところが、「牛鬼対吸血鬼」や、ガロ版「鬼太郎夜話」が単行本に収録されるにあたって、今度は問題のキャラが、「牛鬼」に登場するクモ型の牛鬼とデザインが食い違ってしまう……ということで、すったもんだの末(もっと詳しい経緯が知りたければ、水木しげる漫画大全集の該当巻とかをご参照ください)――。

・「牛鬼対吸血鬼」は、「おどろおどろ対吸血鬼」にタイトルを変更。
・「鬼太郎夜話」冒頭の、おどろおどろ姿の牛鬼が出てくる部分は、一時的なカット後、クモ型の牛鬼が出てくるバージョンを描き下ろして追加。

 こんな感じで大改編がおこなわれたわけです。
 で、これが後続の再録本にも影響したため、だいたい僕ぐらいの世代が小さい頃に読んだ原作は、全部改変後のものばかりだったんですね。上記の複雑な経緯は、大人になってからKさんという詳しいかたに教えていただきました。はい。
 ……で、その牛鬼とおどろおどろをさりげなく絡ませた、今回のアニメ版。狙って書いたのか、脚本さん(笑)。

 あと、零れ話ついでにもう一つ。
 アイキャッチに出てきた「おとろし」というのは、「おどろおどろ」と同じ妖怪です。水木作品の中では、妖怪画はおとろし、漫画版はおどろおどろという具合に名前が使い分けられていますが、もともとは江戸時代に狩野派の絵師達によって描かれた同一妖怪で、鳥山石燕もこれを描いています。
 ただ、見た目はともかく、名前の方が統一されていないようで、「おとろし」「おとろん」「おどろおどろ」「毛一杯」みたいに、絵によっていろいろな名前が記されています。
 まあ、毛一杯は後続絵師のネーミングセンスの問題なのでともかく――。実は「おとろし」「おとろん」「おどろおどろ」については、これは名前が混乱した理由が、明白だと思います。
 当時の字体を見比べれば分かるのですが、「し」、「ん」及び、複数の文字を繰り返す記号である「くの字点」は、形状としてかなり紛らわしいのですね。そこから生じた読み違えが、上記のような妖怪名のブレに繋がったのだ――と推察されます。
 以上、零れ話でした。

 ……本編の感想より、旧作の話と余談が多いのはどうなのか。


 さて次回は「のっぺらぼう」。
 人魂を食べて顔を盗る……のはもう「霊形手術」で同じことをやっちゃってるので、完全にオリジナルストーリーになりそうですね。
 ではまた!

テーマ : ゲゲゲの鬼太郎
ジャンル : アニメ・コミック

tag : ゲゲゲの鬼太郎 水木しげる 妖怪 アニメ

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